<経緯>
2024年3月10日(日)に、並木集会所、野中集会所、加沢集会所にて、「秋保町長袋事業概要説明会」と称して、当該事業者が実施する太陽光パネル工場建設の事業概要について、地権者に対しての説明会が、CES合同会社主催の下、開催されました。
説明会での資料によると、以下の計画で検討が進んでいることが分かりました。
・2024年6月~2025年5月 環境影響評価
・2025年9月~2027年2月 林地開発許可申請
・2026年12月~2027年4月 その他開発許認可
・2027年5月~2030年12月 工場本体工事
・2031年1月~2031年3月 運営に係る最終確認
・2031年4月~ 操業開始
予定場所は、国道457号線を挟んで、長袋地区、及び上愛子地区に掛かり、該当地権者は169筆となっております。
この説明会を受けて、並木町内会においては5月上旬に話し合いが持たれましたが、該当する地権者の中でも売却をしたい方、しない方と意見が分かれており、売却をしない方からは土砂の流失により発生する水質汚濁による米作を始めとする農業への影響を懸念しています。実際に加沢地区における農家では、取水の際、特に雨後の取水においては泥水が発生する等の問題に苛まれており、「清流育ち秋保米」の品質への影響を懸念する声が大きくなっています。
本事業予定地に隣接している秋保温泉郷は、釈迦に説法かとは思いますが、東北随一の観光名所であり、旅行サイトじゃらんのランキングにおいても1位を獲得している非常に有名な温泉郷であり、東北で唯一のグローバルMICE都市としてG7が開催されており、2016年度の麻生大臣(当時)からも非常に好評を頂き、2023年度の2回目の開催へと繋がっており、現科学技術大臣でもある高市大臣からも、ユネスコ無形文化遺産である「秋保の田植え踊り」の披露を通じて、東北の素晴らしさと、仙台市が持つグローバルMICEの可能性に高い評価を頂いており、東北・全国のみならず、世界都市としての価値が確立されつつあります。
また、同温泉郷の各旅館施設においては上述の秋保米も使用されており、農業と観光が密接な関係を持って経済が回っております。
そうした中、本年4月15日に西仙台ゴルフ場メガソーラー発電所で発生した火災は、鎮火作業に困難を極め、発生から22時間を要したニュースを受け、周辺地域住民は、住民感情として、さらに大きな不安を抱えております。
<動向>
現在、当団体では地域住民を始め、広く全国からも意見を集めております。
途中経過ではありますが、その意見の中で大半の方が「大規模森林開発」や「景観への影響」を心配しており、観光客の減少、それに伴う地域の衰退を懸念しております。建設予定地の下流域に当たる秋保地区のブルワリーやワイナリー、上流域に当たる作並地区のニッカウヰスキーのブランドイメージ低下等を心配する声も上がっています。ビール・ワイン・ウィスキー共に重要となるのは「水」であり、「自然と共に時間をかけて醸し出される」ブランドのイメージが工業地帯の中で生産されるものへと変わり、長年に渡って積み上げられたそれぞれのブランドイメージが壊されることへの危惧から、こうした意見が多く出ていると推察されます。
また、秋保中学校からの景観悪化も懸念されることから地域の子どもたちの教育と成長への影響を心配する声も上がっております。そうした中、説明会の資料を拝見すると、「千葉県庁」と明記されている部分もあり、資料そのものの正確性、要領を得た内容になっておらず、問い合わせ先へ電話をかけてみても繋がらないと言った事態があり、計画の詳細を知り得ることが出来ません。また、他地区での関連事業を見ても実態が分かり難い事業者であることの報道がなされております。https://www.tokyo-np.co.jp/article/248793
一方で、私たちは東日本大震災の経験により自然に対しての感謝と畏怖の念を抱く事を、改めて思い起こされました。再生可能エネルギーの推進は必要でありますが、大規模自然破壊をしてまで行うことはSDGsの観点からも望まれることではありません。しかしながら、戦後の高度経済成長期を経て現在に至る歴史において、その原動力を担ってきたのは「産業の発展」であることもまた事実です。多くの雇用を生み出し、それに伴い地方の至る所で高等教育が整備され、教育を始めとした様々な基盤整備が進み、私たちはその恩恵を受けてきました。そのジレンマから、こうした問題は当地域のみならず全国で起きており、賛成・反対の二極論で議論されてしまい、結果として私たちの美しい日本の国土が失われることに繋がっています。その脱却に向けて、国においても本来の再生可能エネルギーの在り方について議論がなされており、経済産業省・資源エネルギー庁では「電力の地産地消」を推奨しています。
東日本大震災では集中型エネルギーシステムの脆弱性というのも浮き彫りとなりました。この反省から、比較的小規模で、さまざまな地域に発電施設が分散する「分散型エネルギー社会の実現」を国としても推奨しています。集会所やコミュニティセンターへ太陽光パネルを設置することで、防災的な観点からも分散型エネルギーは大きなメリットがあります。
私たちと自身も、こうした国の政策を推進していく上で、いち国民としてどの様な関わり方が出来るのか?、こうした問題にどの様な対処が出来るのか?について、経済産業省への訪問を来月中に行う方向で調整中です。
地域のエネルギーの在り方について、経済と環境、観光と農業への影響を出さず、全てが両立するような、地域住民が納得する形となる事を願っています。
<私たちの要望>
秋保地区は里山と共に歴史と文化を育んで来ており、県立自然公園である二口峡谷や、仙台市の指定文化財である磐司岩、その麓に広がる田畑と農村、そして「仙台の奥座敷」と言われる秋保温泉郷はその結果として存在しております。
北側の作並地区もまた、国指定登録有形文化財である定義山を始め、作並温泉、そして国の伝統産業でもある作並こけしがあり、秋保同様、里山から育まれた歴史と文化が存在しています。
また、そうした地に魅せられ日本国内にただ2つしかないニッカウィスキーの蒸留所のひとつが、ここ作並にあります。美しい自然環境と清流が醸すウィスキーは世界中のファンを魅了していることは周知のことと思います。この両地区は上述から言えるように日本の里山文化、原風景の魅力に見せられ、東北はもちろん、全国、ひいては世界中からも注目される地へと成長を遂げてきました。これは少子高齢化に伴う里山や田畑の荒廃が全国様々な地で問題として浮き彫りとなっている時代において、非常に稀有であり、貴重な存在として、ひときわ魅力を放つ地となっています。
そうした地に広大な工場が建設されることは、これまで育んできた里山文化に影響を及ぼさないとは言い切れず、地域住民や農家、観光事業者を始め、本事業が実施された場合には、訪れる世界中の観光客も含め、非常に多くの方々が不安と注目の渦になる事を私たちは懸念しております。
宮城県で令和4年度に発令された「太陽光発電施設の設置等に関する条例」は、まさしくそうした里山文化を守り、先人が築き上げた歴史と文化への敬意が県民及び県の意思として、こうした形として条例化されたのではないでしょうか?そして、これに呼応するように仙台市においても「仙台市太陽光発電事業の健全かつ適正な導入、運用等の促進に関する条例」も発布されております。
もちろん、現実に目を向ければ、山を売らない人もいれば、手放したいと思っている人もいます。少子高齢化の社会へと変化している今、地方の山林所有者は管理や運用に苦悩しています。だからこそ、私たち市民一人ひとりも、自分ごとの問題として捉え、具体的に解決していかなければならないと考えております。このままでは山は荒れ、仮に開発が白紙となったとしても土砂災害や獣害が無くなることはありません。
もともと里山は人間の手によって整備されてきており、建築材を始め、薪や炭として、私たちの文化を育み、暮らしが賄われてきました。言わば、里山は宝の山であったのですが、戦後のエネルギーの移り変わりにより木炭から石油へと変遷し、価値が失われてしまった為、山は荒れ、手入れをする人も減ってしまいました。いま一度私たちは立ち止まって、先人たちの歴史と文化を見直し、失われてしまった里山の価値を蘇らせ、現代に即した形で地域全体として産業と環境、文化とコミュニティの振興に寄与したいと思っています。
しかしながら、地域内でそうした話し合いやビジョン形成が進んでいる一方で、事業者側との擦り合わせを行うべく問い合わせをしても電話が繋がることは皆無の状況が続いており、私たち自身も本当に困っております。もちろん、仙台市においても同様に事業者側からの打診や問い合わせが無いことはお伺いしており、行政における心中も私たちはお察しいたします。
そうした部分も踏まえ、事業の諸手続きや許認可等に当たっては、これまで述べさせて頂いた経緯と歴史・文化等を総合的に勘案し、慎重に慎重を重ねた議論と、地域住民・各事業者・秋保作並に訪れる観光客全てが納得し、里山を再生していくような建設計画となる事を要望いたします。
そして、仙台市に置かれましては、それら背景も踏まえ、関係法律及び条令に従うこと、客観性・合理性にかける判断をして、このままの計画で建設を認めることが無いよう、総合的なメリットを鑑みた妥当な判断をいただくよう、ここに強く要望いたします。
仮に本件が頓挫したとしても、私たちは本件をきっかけに守るべき豊かな自然と里山文化、そして経済性を両立させた新しい「地域循環共生圏」を作っていきたいと考えております。
地域循環共生圏は、環境省が提唱しているビジョンで、環境負荷をいま以上に増やすことなく、地域の中で文化やコミュニティ、経済を回していくシステムであり、経産省同様に、環境省へも訪問し、この地域循環共生圏のビジョンや推進の方法について、本件の相談をしながら話し合いをする機会を来月中のスケジュールで調整中であります。
私たち自身はもちろん、地域や関わる方々を含め共に考えながら里山を再デザインしたいと思っております。例えば、プレーパークなどを作ることで子どもたちを始め、これからの未来を創造する世代と共に里山文化を学び、振興を図る事で日本はもちろん世界に発信出来る地域循環共生圏のモデルケースとなる秋保・作並を目指していきたいと思っております。
その目的達成の為に必要な労力は当団体も惜しみなく捧げて行きたいとここに決意します。
以上、